こんにちは!井上嘉人行政書士事務所の黒木です。
これまで、「NPO法人とは?」「NPO設立で力を入れるべき手続き」についてお話してきましたが、
今回は、「NPO法人を設立する時に必要な手続きのすべて」について、わかりやすく説明したいと思います。
NPO法人を設立・運営するためには、普通の会社を設立するのと同じく、様々な「手続き」を行う必要があります。
この「手続き」は、大きく分けると「立ち上げ手続き」「毎年する手続き」「変更等がある場合の手続き」の3種類に分けられます。
今回はその中の、「立ち上げ手続き」について、詳しくお伝えします。
「NPOを作る手順としてすべきこと」に黄色のマーカー、
「NPOを作るときに知っておくとよい知識」に赤のマーカーをしているので、参考にしてみてください。
目次
◇NPO法人を「立ち上げる」ための手続き
★事業の決定
・特定非営利活動に係る事業を決める
・その他の事業を決める
・定款の案を作成する
・その他の重要事項(案)を決める
★仲間を集める
・社員を集める
・役員を決める
・役員報酬を決める
・設立総会を行う
・設立総会議事録を作る
★書類を作成・提出する
・「設立認証申請」書類を作り、所轄庁(市役所など)に提出する
・「設立登記」書類 を作り、法務局に提出する
・「設立登記完了」書類を作り、所轄庁(市役所など)に提出する
・「設立時の財産目録」を作り、事務所に据え置く
・「法人設立届」を国、県、市に提出する
・(従業員を雇用する場合は)税務署、ハローワーク、労基局で雇用手続きをする
◇まとめ
NPO法人を「立ち上げる」ための手続き
まず、大前提として、NPO法人を作るのに、特別な資格は必要ありません。
事業を決めて、仲間を集めて、少しお金を用意して、書類を作成・提出すれば、いつでも誰でも作ることができます。
NPO法人の立ち上げに必要な手続きは、全部で15個以上あります。
手続きの順番どおりに並べて書いているので、スケジュールを立てるときの参考にしてください。
★事業の決定
NPO法人を立ち上げるということは、NPOという性質の「法人」を作るということです。
「法人」ですので、普通の会社を起業する時と似たような手続きを踏む必要があります。
「特定非営利活動に係る事業」の決定
「特定非営利活動促進法」という法律で決められている、次の20の分野(特定非営利活動)の中から、NPO法人の活動のメインとなる「特定非営利活動に係る事業(本来事業)」を決める必要があります。
逆の言い方をすれば、法人としてやりたいこと(主目的・主な活動)が、特定非営利活動として定められている20の分野に当てはまらない場合は、NPO法人は設立できないため、別の法人形態を選ぶ必要があるということです。
ここで決定したメインとなる事業をもとに、あとで「定款作成」という作業を行います。
不安であれば、弊所のような法律の専門家に相談してみてくださいね。
引用:特定非営利活動促進法 別表(第二条関係)
注:ちなみに、私たちが事務所を構える福岡市では、2021年1月時点では、「20 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動」として条例で定める活動はありません。
そのため、福岡市でNPO法人を設立したい方は、1~19の中から事業を決めてください。
また、細かい条件として、以下のようなものを守る必要があります。
- 宗教活動を主たる目的としないこと
→ 「○○教の教義を広め、信者さんを増やしましょう」といった目的を掲げるNPO法人は設立できません。 - 政治活動を主たる目的としないこと
→ 「○○党の反対活動を行い、より良い社会を作りましょう」といった目的を掲げるNPO法人は設立できません。 - 選挙活動を主たる目的としないこと
→ 「○○さんが次の衆議院選挙で当選できるように、応援しましょう」といった目的を掲げるNPO法人は設立できません。
不安な場合は、NPO法人の設立に詳しい行政書士に相談してみてください。
「その他の事業」の決定
「特定非営利活動に係る事業(本来事業)」は、前述の【NPO 設立手続き 1】のとおり、「特定非営利活動促進法」で決められた分野から選ぶ必要がありますが、「その他の事業」は、必ずしも20の分野(特定非営利活動)の中から選ぶ必要はなく、自由に決めることができます。そのため、「その他の事業は行わない」という選択も、もちろんできます。
ここで決めた内容も、この後に行う「定款作成」という作業の中で必要になります。
ざっくりで構いませんので、例えば「雑貨の作成・販売」「イベントの実施」など、「どんな事業をするか」を決めてみてください。
ただし、「その他の事業」をするには、以下の2つの条件を守らなくてはなりません。
- 「その他の事業」の活動は、NPO法人の「メイン」の活動ではなく、あくまで「サブ」の活動であること
→ メインの活動である「特定非営利活動に係る事業」の活動に支障がない範囲でのみ、「その他の事業」の活動を行うことが許されています。
「その他の事業」が主活動になってしまうと、NPOという「公益性の高い団体のあるべき姿」とは異なってしまうからです。 - 「その他の事業」で得た収益は、収益の全てを「特定非営利活動に係る事業」の活動費用として使うこと ※
→ 「その他の事業」で損失が出たとしても、それを「特定非営利活動に係る事業」の活動資金や「特定非営利活動に係る事業」で得た収益から補填することはできません。
「その他の事業」の財務状況が、NPO法人の主目的である「特定非営利活動に係る事業」の財務状況にマイナスの影響を与えるのは、本末転倒だからです。
※ NPO法人は「公益性の高い団体」であるため、収益の使い道が限られており、お金の使い方に注意が必要です。例えば、「特定非営利活動に係る事業」を行う中で収益を得た場合、その収益は「特定非営利活動に係る事業」の活動資金として使う必要があります。NPO法人の構成員に分配するような使い方はできません(職員に賃金を払うのは基本的には問題ないですが、高額だと利益分配にあたるので注意が必要です)。
定款の案を作成する
法律的には、国の憲法>法律(特定非営利活動促進法や、労働基準法などもここに含まれます)>条令>>>法人の定款>法人内規程・規則という力関係になります。
注意点としては、この段階では、定款の「案」だけを作成してください。
定款の内容は、NPO法人を立ち上げる人が勝手に決めてよいものではなく、この後に行う「設立総会」という会議の場で、立ち上げメンバーみんなと一緒に協議し、決めるものだからです。
そのため、この段階では、定款の「案」だけを作っておきましょう。定款(案)は、設立総会に参加する設立メンバーが簡単に目を通せるように、文書にして準備しておくことをおすすめします。
所轄庁のホームページ等で検索をすれば、定款のひな型は出てきますが、法人の構成メンバーや事業内容で、今後起きうるトラブルや困りごとは全く異なります。定款は、あなたの大事な法人を、未来のトラブルから守るものです。ご自身で作るのも素敵な経験ですが、ぜひそこは法律の専門家に任せて、あなたはあなたにしかできないイベントの企画や寄附金のお願いなど、力を入れるべきところに力を入れるのをおすすめします。具体的に定款をどう作ったらいいかわからない場合は、ぜひ当事務所のような行政書士に相談してください。
その他の重要事項(案)を決める
定款の案に加えて、NPO法人の運営に関する、以下のようなその他の重要事項(案)も決めておきましょう。ここで決めた案は、定款の案と同じく、この後に行う設立総会で決定する流れになります。
- 設立趣旨書案(参考:福岡市)
- 入会金、会費の案(入会金、会費を取らないという選択もできます)
- 財産目録案(参考:福岡市)
- 設立1年目と2年目の事業計画・活動予算の案(参考:福岡市(その他の事業あり・その他の事業なし))
★仲間を集める
NPO法人の設立要件には、「人」に関するものがいくつかあります。
例えば、「仲間(社員)が10人以上いること」「理事3人、監事1人以上の役員がいること」などです。
社員を集める
「総会」とは、NPO法人の重要事項を決定する会議のことです。普通の会社の株主総会に当たります。
総会では、話し合い→多数決という流れで重要事項を決めていきますが、この「多数決に参加できる権利」のことを「議決権」といいます。
つまり、NPO法人の「社員」とは、「総会で行われる多数決に参加できる人」のことを指します。「NPOで働いている職員」ではありません。
また、「社員」は個人でも、団体でも、日本人でも、外国人でも、大人でも、子供でも構いません。
あなたの志に賛同してくれる人で、重要事項を決定する総会に参加して、議決権を行使してくれる人なら、基本的には誰でもよいのです。
役員を決める
一方、「監事」は、理事の業務執行やNPO法人の財産状況などを監査し、NPO法人が適正に運営されているか、違法な行為がないかチェックする役割を担当します。
ちなみに、「理事3人以上、監事1人以上」という人数については「特定非営利活動促進法」で決められているので、基本的にはこの人数を下回ることはできませんし、NPO法人発足後も、役員の数が不足しないようにしないといけません。
加えて、理事や監事は兼職できません。以下の表を参考に、役員の割り当てを決めてみてください。
引用:福岡市 特定非営利活動法人の手引き(設立編)
加えて、役員を選ぶ時の注意点として、「家族や親戚は、自分+最大1人までしか役員に入れない」という法律上の制限があります。
もう少し詳しくいうと、Aさんが役員になった場合、
- 役員の総数が5人以下のとき・・・「Aさんの配偶者や3親等以内の親族」は1人も役員になれない
- 役員の総数が6人以上のとき・・・Aさん+「Aさんの配偶者や3親等以内の親族」の誰か1人=合計2人が役員になれる
という計算になります。
また、NPO法人は「社会のためになる活動」をする団体のため、以下に該当する人なども役員になれません。
- 破産手続の開始決定後、復権できていない人
- 特定非営利活動促進法に違反して、罰金の支払い後2年が経過していない人
- 暴力団関係者 など
細かい内容になるので、気になる方はNPO法人の設立に詳しい専門家に相談してみると確実かと思います。
役員報酬を決める
「特定非営利活動促進法」で、「役員報酬を受け取れるのは、理事・監事を合わせたすべての役員の3分の1以下の人だけ」と決められているからです。
例えば、役員の総数が5人の時は役員報酬を受け取れるのは1人だけ、総数が6人なら受け取れるのは2人だけ、という計算になります。
実際には誰も報酬を受け取らずに活動している団体も多くあるので、誰も受け取らない、と決めても問題ありません。
設立総会を行う
「設立総会」とは、名前の通り、NPO法人の重要事項を決める「総会」の中でも、NPOの「設立」に関する重要事項を決める、1番最初に行う総会のことを指します。
設立総会では、事前に作成した定款の案や、重要事項の案をもとに、主に以下のようなことを確認(話し合いの後、決定/可決)します。
設立総会で確認・決定すること
- 設立趣旨の決定
- 特定非営利活動促進法第2条と12条に該当すること(暴力団ではない・宗教団体ではない等)の確認
- 定款の決定
- 入会金、会費の決定
- 財産目録の決定
- 設立1年目と2年目の事業計画・活動予算の決定
- 役員と役員報酬の決定
- 設立代表者の決定
設立総会議事録を作る
設立総会で確認・決定したことは、「設立総会議事録」という形式の書面を作成し、記録しておきます。
あとで、コピーを所轄庁などに提出することになるので、原本はNPO法人でしっかり保管してください。
★少しお金を用意する
- 実際の活動のためのお金(イベント会場の会場代、パンフレット印刷代など)
- 活動を支え、管理するための事務的なお金(事務所の家賃、スタッフのお給料など)
- 法人として法律上しないといけない手続きに必要なお金(住民票などの発行手数料、専門家への依頼料など)
この中で、NPOを「立ち上げる」時点で必要な「法人として法律上しないといけない手続きに必要なお金」は、それほどありません。
絶対に必要なのは、以下で紹介している住民票の発行手数料のみになります。
手数料を用意する
NPO法人は普通の企業と異なり、立ち上げのための資本金や、基本財産などの資産は必要ありません。
ただし、この後にお話しする「書類を作成し、提出する」という手続きの中で、「役員の方の住民票を市役所等で取得し、他の書類と合わせて担当部署に届け出をする」という作業があります。そのため、住民票の発行手数料は必ず必要になります(参考:福岡市は300円/通です)。
加えて、弊所のような士業の事務所に設立の手続きを依頼する場合には、依頼料が別途かかります。
NPO法人に関する手続きは、自分でやってしまえば費用をかけずに済ませることができますが、第三者が代理して行う場合、行政書士以外は、たとえ司法書士や税理士でも、することができません(違法行為となってしまいます)。
次回のコラムで詳しくお話ししますが、NPO法人は設立後も毎年の報告や適宜変更手続きなどが必要で、面倒くささを感じてしまうかもしれません。ですので、費用は掛かってしまいますが、NPO法人の設立時点から、事務関係のことは行政書士に丸投げしてしまうのも一つの方法です。
弊所でも、多数のNPO法人のお客様から、毎年の報告や会計事務を丸ごと請け負っていますが、「したいことに集中できる」「困ったときに相談に乗ってくれる法律の専門家がいるのは安心」と好評です。
★書類を作成・提出する
- NPO法人を立ち上げるために、所轄庁(市役所など)に提出する書類
- 所轄庁からのOKが出た後に、法人の登録をするために、法務局に提出する書類
- 法務局での法人の登録が終わった後に、所轄庁に、法人の登録が完了したことを報告する書類
市役所への提出書類
・設立認証申請書 → 所轄庁(ここでは福岡市)に「NPO法人を設立します!」と届け出る書類です。
・定款 → 設立総会で決定したものを提出します。
・役員名簿 → 設立総会で決定した理事と監事の役員一覧を作成します。
・就任承諾及び誓約書のコピー → 理事・監事が1人1枚ずつ提出します。
・役員の住所又は居所を証する書面 → 住民票などを理事・監事それぞれ1人1枚ずつ用意・提出します。
・社員のうち10人以上の者の名簿 → 社員全員の名簿を提出する必要はありません。10人分の名簿を提出すればOKです。
・確認書 → 暴力団や宗教組織でないことを確認(宣言)する書類です。
・設立趣旨書 → 設立総会で決定したものを提出します。
・設立についての意思の決定を証する議事録のコピー → 設立総会の議事録のことです。原本はNPO法人で保管します。
・設立当初の事業年度及び翌事業年度の事業計画書 → 設立総会で決定したものを提出します。
・設立当初の事業年度及び翌事業年度の活動計算書 → 設立総会で決定したものを提出します。
⇒ これを出して、2~3カ月で「設立の認証書」が所轄庁からもらえます。所轄庁に取りに行きましょう。
法務局への提出書類
・定款 → 所轄庁から「設立の認証書」をもらった時に提出した定款を提出します。
・認証書 → 所轄庁からもらったものを提出します。あとで事務所でも提示できるように、必ずコピーを取ってください。
・就任承諾書 → 理事と理事長について、それぞれ提出します。
※ 一般的に、登記手続きには登記手数料(印紙代・国に支払う登録免許税)がかかりますが、NPO法人の場合は、非営利法人なので印紙代がかかりません。司法書士さんに登記を依頼する場合は、別途報酬が必要です。
⇒ これを出して、1~2週間ほどで登記が完了します。登記の完了を確認しましょう。
登記完了後の市役所への提出書類
・設立登記完了届出書 → 登記が完了したことを踏まえ、所轄庁に登記が完了した旨を書面で報告します。
・登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の原本 → 法務局で取得します。
・登記事項証明書(履歴事項全部証明書)のコピー → 所轄庁は登記事項証明書が2部必要なようなので、コピーも1部用意します。
・NPO法人設立時の財産目録 → 設立総会で決定した内容で、2部用意します。
「設立時の財産目録」を作り、事務所に据え置く
ちなみに、「据え置く」とは、誰かが「書類を見たいんですけど」と事務所に訪ねてきた時に、その時その場にいるスタッフの人が、さっと取り出して見せられるような「すぐ取り出せる場所」に書類を保管しておくことをいいます。
また、この段階で、NPO法人名義の銀行口座を1つ作っておくことをおすすめします!
→ HP作成のためのサーバー契約や、事務所の水道光熱費などを法人名義で支払うことができます。必要な事務手続きを進めてください。
これで、NPO法人に関する、法律的な設立手続きの全てが完了です。お疲れさまでした!
まとめ
NPO法人は、誰でも、志と仲間さえいれば立ち上げられることが最大の魅力です。
当事務所では、NPO法人の立ち上げから、そのあとの運営に関わる事務や会計業務、イベントなどの運営企画まで、幅広くサポートをしています。
これまでの当事務所の実績や人脈が、きっとお役に立てるはずです。
「こんなささいなこと、聞いてもいいのかな・・・」という小さな相談から、「色々複雑すぎて、どこから相談していいかわからない!」という大きな相談まで、幅広く対応しています。
まずは、お電話(092-714-7690)か、当事務所(福岡市中央区渡辺通5-23-2-409)までお問い合わせください😊
また、公益性の高い団体を立ち上げようと考えた場合、「一般社団法人(非営利徹底型)」という選択肢もあります。
NPOと一般社団法人の比較も、今後コラムに掲載していく予定です。お楽しみに!